いつもお世話になっております。竹林アドベントカレンダー2023 17日目を担当いたします、村崎と申します。
二度目の担当となります本日は、ちょっとした掌編を書いてまいりました。どうぞご笑納いただけましたら幸いでございます。


 窓の外は風が吹いていた。
 数日前にやってきた季節外れの暖気が春の嵐をもたらしたかのような強いつよい風が雲をどんどん押し流していく。時折雲の合間から射し込む月影が手にしたマグカップから立ち上る湯気を淡く彩り、そういった風情を感じる心が自分にもあったことに少しの驚きと嬉しさを覚える。あるいは自分の何かが変じたからこそ、風流を解することが出来たのかもしれない。それはきっとこのこの場に足を運ぶようになったことがきっかけだろう。いつかどこかに置き忘れた余白をここ──竹林の奥地にいることで拾うことが出来たのだ。
 今夜も竹林の広場には活気にあふれる足音が行き交っている。既に先客の少女とにこやかな和装の人が並んで座っていた広場の片隅に腰を落ち着け、姿形もさまざまな気配が発する言葉に耳を傾ける。今夜は週末の余暇の話題や何やら大きな敵──シャワーシバイタというらしい──との戦いに赴く者たちへの戦歌がよく聞こえてくる。少し前は言葉や各人の故郷の文化、現代の魔法技術など、ここでは常に話題が移り変わり聞いていて飽きない。
「……もうこんな時分か」
 ふ、と和装の人が空を見上げて呟く。月の位置を見れば、随分と夜が深まったことが伺いしれた。少女と私は顔を見合わせ、一緒になってその人の次の言葉を待った。いつも楽しみにしている時間が来たのだ。
「どれ、ここで一句」
 にこり、声音と同じくらいやわらかく笑んだその人がぽつりぽつりと句を唄い上げると、それまで賑やかに思いおもいの時間を過ごしていた気配たちが一人、また一人と寝床に向かって姿を消していく。世間ではまだ夜の端だとされる時分だが、この竹林ではそこが一つの境界線だというようにあっという間に音が減っていくのだ。今、ここにいるのは数人分の気配と少女と和装のその人くらい。言葉がなくても、ただ在るだけでも良い。心地よい甘やかな夜の気配。
 風がさあさあと竹葉を揺らす音ばかりが響く。まだ吹いている風の音を子守唄にすれば今夜は眠れるだろうか、とすっかり空になったマグを置いて布団に潜り込んだ。

たけすきーでの日々はSNSで疲れて凝り固まっていた心を溶かしてくれるような、あたたかみがあると私は思います。この先もやわらかいインターネットを愛する者として片隅に住まわせていただければ幸いです。

体に堪える気候の日々が続きます。どうぞみなさまご自愛なさって、日々を過ごしてくださいませ。
12/17担当 村崎でした。

投稿者 sbwy254

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です