竹林アドカレ12/3の記事(小話)です。
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カンカンカンという音で目が覚める。雪見障子を開けて外を見ると、細い竹を持った数匹のカニがいる。カニたちは両腕に持ったその竹をカンカンカンと打ち鳴らし続けていた。ここは竹林の中にある隠れ宿。純和風の旅館だ。
わたしは久しぶりにとった3連休を、海ですごそうと思っていた。旅行サイトで海の近い宿泊施設をさがしているときに、純和風の外観に惹かれてこの宿の詳細ボタンをクリックした。旅館にしては珍しく、ひとり旅歓迎という文字を見てわたしはすぐにここを予約した。
昨日の夕方に到着して、まず旅館裏の立派な竹林に驚いた。青々とした竹林が旅館の裏に続いていて、どう見ても海が近いとは思えなかったからだ。とりあえずその日はチェックインして、竹林に囲まれた露天風呂と美味しいごはん(筍づくし)をいただいて眠りについた。
「すみません、ここから海が近いと聞いたのですが」
朝食後、おそるおそる給仕してくれた従業員さんに尋ねる。
「あぁ、びっくりされたでしょう?でも海はすぐそこなんですよ」
聞かれ慣れているのだろう、従業員の女性はにっこり笑って、海に行く準備ができたらロビーで声をかけて下さい、と言った。
私は海に行くために持ってきた水着を着て、ラッシュガードを羽織りロビーに向かう。受付にいるふにゃ〜とした男性に声をかける。
「すみません、海まで行きたいんですが」
「はい。あちらの子が案内しますので、ついて行ってくださいね」
ふにゃ〜とした男性が手を向けた方をみると、パンダがいた。
「パンダだ……」
「はい、パンダがご案内します」
パンダは二足歩行でひょこひょこと近寄ってくると、わたしの手をとって『こっちだ』というように歩き出した。
パンダに手を引かれて、宿の裏側から外に出る。意外と足の速いパンダに手を引かれて竹林を進む。すると1箇所だけひどく明るい場所が見える。部屋から見た、竹を持つカニたちもいる。明るい場所に向かって、パンダに手を引かれて、最後には小走りになってそこを抜けると。
「ふわぁぁぁ!!」
竹林を抜けると、そこは南国の海だった。
おしまい
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竹林初心者🔰のきーです。普段二次創作かエッセイをごく稀に書くくらいなのでドキドキしながら書きました。
ゆずちゃさんの可愛らしいイラストから思いついた小話でした。想像力を掻き立ててくれる素敵なイラストだったので思わず書いてしまいました。お粗末さまです。
泳げる時期(夏)と筍の旬(春)が同時に存在する不思議なお宿。そんなお宿に、私は泊まりたい……
#竹林アドカレ2023